
オメガのスピードマスター プロフェッショナル、通称”スピマスプロ”の名を聞いたことのない時計愛好家はいないでしょう。オメガという大きなブランドの中で、最も高い知名度と輝かしい長い歴史を持ち、それでいて今なお最も人気の定番モデルとして進化を続けています。今回は、2021年から展開される現行型の「スピードマスター プロフェッショナル ムーンウォッチ」が進化したポイントを解説します。
50年以上ほとんど姿を変えていない傑作
1957年に初代モデルが製作されて以来、オメガというブランドを世界へ広めた存在である「スピードマスター」。万能な軍用時計として1948年に誕生した、初代「シーマスター」から派生したモデルのひとつであるスピードマスターは、経過時間を細かく計測できるクロノグラフ搭載機としてデビュー。”スピード”という名が示すように、モータースポーツの分野で使用されることを想定した、視認性の高い文字盤や外周ベゼルのタキメーターが特徴です。

特にスピードマスターの存在を大きく世に知らしめたのは、宇宙との深い関係でしょう。積極的に宇宙開発を行っていたNASAは、1964年に世界各国の時計メーカーにクロノグラフを搭載した時計の開発を依頼。複数のブランドが名を連ねて参加したものの、宇宙船での実用を想定した過酷なテストでほとんどの時計は壊れてしまいました。
そこで唯一壊れなかったのがスピードマスターでした。しかも驚くべきは、オメガ以外のメーカーはそれ専用の特別仕様で挑んだのに対し、スピードマスターは通常の市販モデルだったのです。晴れて翌1965年にNASAの公式装備品として認定されました。
スピードマスター プロフェッショナルに「ムーンウォッチ」という名称がつくのは、1969年に人類初の月面着陸を果たしたNASAの宇宙飛行士ニール・アームストロング船長と操縦士バズ・オルドリンがスピードマスターを着用していたということに由来します。この月へ旅したスピードマスターは1967年から製造された第4世代目(105.012)のモデルであり、今回ご紹介する現行モデルの「スピードマスター プロフェッショナル ムーンウォッチ」はこの4世代目が持つデザインの意匠がほぼそのままの形で受け継がれています。

2021年から展開される現行型
この”スピマスプロ”は誕生から現在まで度重なるモデルチェンジと、素材やカラー違いを含めて数えきれないほどの多くのモデルが展開されてきました。オリジナルを踏襲したケースや文字盤、ムーブメントなどの仕様が年代別に変化しており、外見上はほとんど変わらないながらも、見比べると細かな違いを楽しめます。

現在の最新モデルが発表されたのは2021年のこと。2014年から展開されていた前作と比較すると、ムーブメントの変更とそれに伴う精度や耐磁性、ケースバックの仕様や細かな文字盤上のデザイン、ブレスレットの仕様が異なっており、控えめながら全方向から刷新したのです。
まず大きな違いはムーブメント。2019年、月面着陸を果たした1969年から50年目となる記念すべき年に、新しい自社製の手巻きムーブメント「キャリバー3861」を発表しました。これは1968年以降のスピードマスターに長らく搭載されていた「キャリバー861」をベースとし、現代にふさわしいスペックにアップデートしたもの。発表されてすぐは数少ない限定モデルのみに搭載されていましたが、2021年に刷新された新生”スピマスプロ”に標準搭載されることになり、今に至ります。

ベースとのムーブメントとの最大の違いは、オメガの代名詞でもある「コーアクシャル脱進機」を組み込んだこと。これは精度に大きくかかわるパーツ形状を特殊なものに変えることで、高い精度を出すだけでなく、摩耗や油切れを起こしにくい構造のため、オーバーホールの期間を通常の倍ほどに延長させることが可能となりました。加えて、ムーブメント自体のサイズが当時からそのままでありながら、およそ38時間であったパワーリザーブが50時間まで延長されたことにも注目です。
また、この脱進機周辺のパーツを磁気の影響を受けにくいシリコン製のものに変えることで、1万5000ガウスもの高い耐磁性を実現しました。デジタル機器に囲まれた現代では耐磁性が不可欠なので、まさに時代に合わせたアップデートであると言えます。ムーブメント自体が耐磁性を持ったことで、非磁性素材でムーブメントを取り囲むためのインナーケースが不要になり、ケースがこれまでより薄く、そして大幅に軽くなったのです。

控えめながら確実に進化した外装
前述したように第4世代目のスピードマスターを現代に継ぐ本作は、ムーブメントほど外装に分かりやすい違いはありません。実用性を考慮して加えられたリュウズガードにより左右非対称になったケースや、第3世代に比べ少し幅広になったクロノグラフのプッシュボタン、NASA公式装備品であった名残である文字盤の「PROFESSIONAL」表記など、まさしくその顔は第4世代のスピードマスターが持っていたものです。
しかし、そんな中でも外装の質感は確実に上がっており、2014年以降の前世代と比べると、文字盤周りにわずかな変化が見られます。文字盤縁の分目盛りの部分が一段下げられた「ステップダイアル」になったことで、文字盤表面の立体感が強調されました。

特に細かいのはインデックス。旧作は文字盤の上にそのまま夜光塗料を乗せているだけでしたが、本作は文字盤表面を彫り込んで、そこに夜光塗料を流し込むという構造になりました。より多くの夜光塗料を流し込むことで、インデックスの発光時間が長くしたというわけです。

対してブレスレットは分かりやすい変化点でしょう。楕円形状のひとつひとつのコマが短くなったため、より細かなサイズ調整が可能になったことに加え、片開き式のDバックルには長さの微調整機構も備わっています。根元幅に対して、バックル側が細く絞られた独特の形状は他ではあまり見ませんが、これはケース本体との重量バランスと装着感を考慮して設計されたものです。

与えられた選択肢
現行”スピマスプロ”が面白いのは、外装の仕様違いが用意されているところ。まず風防は、オリジナルに忠実な強化プラスチック製の「ヘラサイト風防」と、現代らしく傷がつきにくい「サファイアクリスタル風防」から選べます。
当時強化プラスチックが採用された理由は、無重力の宇宙船内で風防が割れると、そのガラス片が飛び散る危険性があったから。サファイアクリスタルに比べると傷つきやすいですが、その傷がヴィンテージの雰囲気を助長させ、愛着につながるのです。

そして裏蓋の仕様は、中央に「シーホース」が描かれたソリッドバックと、ムーブメントが露わになったシースルーバックを選択できます。搭載するキャリバー3861の美しい仕上げやクロノグラフの緻密な動きを鑑賞できることが魅力。一方でオリジナルに基づき、歴史を象徴するシーホースのシンボルも重要なもの。どちらを選択するは人それぞれですが、この”スピマスプロ”に何を求めるかで見解が異なってくるでしょう。

スピマスプロの新定番、ホワイト文字盤
2024年3月、スピマスファンにとって大きなニュースがありました。それは、ホワイト文字盤のスピードマスター プロフェッショナルがレギュラーモデルとして発表されたことでした。

1969-70年の間にオメガがNASAからの依頼を受け、宇宙空間での急激な温度変化に耐える特殊な時計を開発するという極秘プロジェクト「アラスカプロジェクト」で作られた、白文字盤のスピードマスターに着想を得ています。空気がない宇宙空間では、地上よりも強い太陽光を受けて黒い文字盤が熱を持ってしまうため、できるだけ熱を持ちにくい白が採用されたというわけです。
この白文字盤は、通常のマットな黒文字盤に対して、ラッカー塗装の光沢のある表面仕上げが特徴。アラスカプロジェクトを特徴づける赤文字で「Speedmaster」と記載されているほか、クロノグラフ秒針の先端も赤くペイントされており、程よいアクセントカラーになっています。一方でインデックスや針は真っ黒であるため、白文字盤とのコントラストが高く視認性は申し分ない印象となっています。

本作が登場したことにより、スピードマスター プロフェッショナルに新しい魅力的な選択肢が生まれました。歴史に忠実でありながら、現行モデルにふさわしいアップデートを遂げた黒文字盤。対して、これまでの歴史を現代的に解釈して”スピマスプロ”の印象を一変させた白文字盤。実に悩ましい選択肢ですが、どちらを選んでも正解なのです。

オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」
品番 ヘサライト風防・ソリッドバックモデル:310.30.42.50.01.001、サファイアクリスタル風防・シースルーバックモデル:310.30.42.50.01.002、ホワイト文字盤モデル:310.30.42.50.04.001
ケース:ステンレススティール(直径42mm、厚さ13.18mm)、50m防水
ムーブメント:Cal.3861(機械式手巻き、パワーリザーブ約50時間)
機能:時・分・秒、クロノグラフ
価格: ヘサライト風防・ソリッドバックモデル111万1000円(税込み)、サファイアクリスタル風防・シースルーバックモデル:127万6000円(税込み)、ホワイト文字盤モデル:128万7000円(税込み)、2025年8月現在