
1969年、アポロ11号が人類初の月面着陸に成功し、最初に月面に足跡を残した宇宙飛行士ニール・アームストロング船長の腕にスピードマスターが巻かれていたことは有名なお話です。初代から基本的な姿を変えていないオメガの代表作「スピードマスター プロフェッショナル」とは別に、この歴史を感じさせるモデルがあります。
それが今回ご紹介する「スピードマスター ムーンフェイズ」です。月の満ち欠けを示すムーンフェイズ機能を備え、オメガと月という親和性の高いふたつの要素を持った、本モデルの魅力を紐解きます。
スピードマスターと月の深い関係性
本作に触れる前に、その偉大なる歴史を振り返りましょう。高い知名度と長い歴史を持つオメガにとって、宇宙との切っても切れない深い関係性があります。
まずオメガの代表作、スピードマスターが誕生したのは1957年のこと。様々な場面での使用を想定した軍用モデル「シーマスター」の初代(1948年)から派生して作られたモデルの一種で、経過時間の計測ができるクロノグラフ機能に重点を置いたモデルとして普及。モータースポーツなどの正確な計時が求められる場面で幅広く活躍しました。

スピードマスターの運命を変える大きな出来事が起こったのは1964年。宇宙開発を急速に進めていたNASAが、世界各国の時計メーカーに”宇宙での使用を想定したクロノグラフ”の製作を依頼しました。名だたるメーカーが提出した複数のモデル(しかもそれ専用の特別仕様)で過酷なテストに挑んだ結果、ほとんどの時計は耐え切れずに破損。そんな中、市販モデルのスピードマスターが最も優秀な成績を収め、1965年に見事NASAの公式装備品に選ばれました。
ここからスピードマスターと宇宙の深い関係性が始まり、晴れて1969年にアポロ11号に搭乗する宇宙飛行士ニール・アームストロング船長とバズ・オルドリン操縦士の腕に巻かれ、宇宙を旅することとなりました。月面に人類初の足跡を残したアームストロング船長とともに、スピードマスターは世界初の月面で着用された腕時計となったのです。

このような輝かしい歴史からスピードマスターの名が広がり、50年以上の長い歴史の中で、技術の進歩とともに数えきれないほどの多くのモデルが誕生しました。シンプルにクロノグラフだけを搭載したオリジナルに忠実なモデル、月と日付と曜日を示すカレンダーを搭載した実用性重視のモデル、さらには音で時刻を示すミニッツリピーターを搭載した超複雑モデルまで、機能・バリエーション共に様々な顔を持ちます。
スピードマスター×ムーンフェイズというロマン
その中でもひと際ロマンにあふれ宇宙との深い関係性を感じさせるのが、今回ご紹介する「スピードマスター ムーンフェイズ」。スピードマスターコレクションにムーンフェイズ機能を載せた最初のモデルは、1985年に1300本限定で展開された、同名にして通称”スピーディームーン”と呼ばれるモデルです。現行型と姿かたちが大きく異なり、スピードマスター プロフェッショナルの文字盤の12時位置にムーンフェイズ機能と日付針(ポインターデイト機能)を設けたものでした。
ここから長い月日が経ち、2016年に装いを新たに現行型の「スピードマスター ムーンフェイズ」が生まれました。12時位置にあったムーンフェイズ表示は6時位置に置かれ、クロノグラフ機能は中心なら伸びる秒積算針と3時位置のインダイアルで経過時間を表示。またカレンダー機能は9時位置のインダイアルで日付を表示し、またこの日付表示針と同軸に短い小秒針を備えています。

つまり本作は、時・分・秒のほかにクロノグラフと日付表示、そしてムーンフェイズという3つの機能を登載しながらも、左右のインダイアルで同軸の針を2本ずつ配置することによって、スピードマスターの基本的なレイアウトを崩すことのない、シンプルに見せるレイアウトを取っているということです。「スピードマスター プロフェッショナル」同様、12時位置のオメガロゴが来る位置に針を置いていないことが、フェイスがバランスよく感じる所以でしょう。

高精度なムーンフェイズ
さて、それでは本作のメインとなるムーンフェイズについて詳しく見ていきます。そもそもムーンフェイズとは、文字盤の下に組み込まれた円盤状のパーツ(=ムーンディスク)が、月の満ち欠けの1周期(約29.5日間)で1回転することで、特殊な形状の窓に見え隠れする月の形が変化するというもの。この表示で月が完全に隠れると新月、すべて見えると満月ということが分かるため、月の満ち欠けが潮の満ち引きに影響することから、船に搭乗する航海士たちに重宝されていたといいます。

前述したように月とのつながりが強いスピードマスターに搭載されるからこそ、本作が持つムーンフェイズの存在はロマンにあふれるものに仕上がっています。ムーンフェイズの表示についてはブランドの個性が最も現れる部分ですが、オメガが作るムーンフェイズは”リアルさ”に重点を置いている印象です。
NASAが撮影した月を可能な限り忠実に再現したという写実的なムーンディスクは、オメガが持つ特殊な微細加工技術によるもの。特に注目すべきは、モデルでムーンディスクの月面にニール・アームストロング船長が残した「月の足跡」が描かれている点で、実際には肉眼で見えないほど小さいものです。しかしそれは、まるで我々が実際に足跡の残された実物の月を眺めているかのような感覚にも近いものを覚えるでしょう。

そして本作のムーンフェイズが特別なのは、その精度にあります。前述のように月の満ち欠けの1周期は約29.5日、もっと正確に言えば29.53日であり、年間を通じておおよそ29.3から29.8日の間で変化します。通常のムーンフェイズは、29.5日というサイクルに合わせて歯車を組み込んでムーンディスクを動かしているため、このわずかに変動する周期に対応できず、少しずつ実際の月齢とずれていってしまいます。
対してオメガのムーンフェイズには、このわずかに変動する周期に対応するために特別なメカニズムを組み込みました。あくまで理論値ではありますが、1日分の表示のずれが生じるまでになんと122年もかかる計算になるのです。少なくとも我々が生きている間、また時計が動いている間は周期のずれを一切気にしなくてよいという優れもの。精度に妥協を許さないオメガらしいムーンフェイズだと言えるでしょう。
クロノグラフとカレンダー機能もお忘れなく
スピードマスターという名が示すように、本作にも例外なくクロノグラフ機能が搭載されていますすが、その表示が代表的な「スピードマスター プロフェッショナル」とは異なる点に注目です。6時位置にムーンフェイズ表示があるため、文字盤上のレイアウトは本作専用のものとなっています。
本作のクロノグラフ表示は、3時位置のインダイアルで同軸上にある2本の針と、中央の針を合わせて読むことで経過時間が分かります。インダイアルの短針は60分、長針は12時間、中央の秒針は60秒で一周するため、これらを組み合わせて何時間・何分・何秒経ったかを瞬時に読み取ることが可能です。

加えて9時位置のインダイアルはクロノグラフではなく、日付表示と常に動き続ける小秒針(スモールセコンド)となっています。しかもカレンダーは一般的な窓表示ではなく針で示す「ポインターデイト」タイプで、オメガでは数少ない採用例のひとつです。針でのアナログな表示に全体を統一することで、クラシカルなスピードマスターらしい雰囲気を崩さずに、バランスよくまとめているという印象を受けます。

それから、表示も特殊であれば登載されているムーブメントも専用のもの。シースルー仕様のケースバックから観賞できるキャリバー9904は、高い耐磁性と高精度を保証する「マスタークロノメーター認定」の自社製ムーブメントで、実用性を考慮した堅牢性の高さが特徴です。構成する部品の数はなんと368個。この膨大な数のパーツ群を大きなプレートで挟み込むことで、振動や衝撃に強い構造としているのです。

オメガならではの魅力が詰まったクロノグラフ×ムーンフェイズ
さて、本作のご紹介はいかがでしたか?
宇宙飛行士とともに月に降り立ったというオメガの歴史的ストーリーが、本モデルのムーンフェイズが持つ意味合いをより特別なものにしているでしょう。ニール・アームストロング船長の足跡が残されたリアルなムーンフェイズを眺めて、偉大な歴史に想いを馳せてみては如何でしょうか。
