ムーンウォッチより先に宇宙へ旅立った歴史的スピードマスターを現代に。「スピードマスター ファースト インスペース」が持つ価値とは

時計好きなら誰もが知るオメガのスピードマスター ムーンウォッチ。1969年、宇宙に旅立ち月へ降り立った時計として広く認知されるムーンウォッチですが、そこからおよそ7年遡った1962年に宇宙空間を旅した時計がありました。

それは、スピードマスターのセカンドモデルにあたる「CK 2998」です。この”宇宙に行った最初のオメガ”を現代に復活させたのが、今回ご紹介する「ファースト オメガ イン スペース」なのです。当時の意匠と現代の雰囲気を併せ持つ、本作が持つ価値を探ります。

目次

初めて宇宙へ旅立ったスピードマスター

不動の人気と圧倒的な知名度を誇り、多くの人々に愛されるクロノグラフウォッチのひとつである「スピードマスター」といえば、宇宙開発と深い関係を持った輝かしい歴史があります。今もオメガの定番モデルであり続けるスピードマスターの「ムーンウォッチ」は、1969年にアポロ11号で人類初の月面着陸を果たした際、NASAの宇宙飛行士ニール・アームストロング船長とバズ・オルドリン操縦士の2人が着用していました。

加えて1970年、アポロ13号の打ち上げから2日目に起こった酸素タンクの爆発事故により、帰還のための軌道修正を余儀なくされました。コンピューター類が使用できない環境下で、14秒間のエンジンの噴射を行ったのですが、その噴射時間を正確に計測したのがスピードマスターだったのです。搭乗していた3人の宇宙飛行士は、無事に地球に帰還しました。

ここまでは有名なムーンウォッチのお話ですが、今回の本題はここからです。ムーンウォッチは宇宙に旅立った時計として広く知られていますが、アポロ11号が月面着陸を果たした7年前、1962年に”初めて宇宙に旅立ったスピードマスター”がありました。それは、1959年から製造されていた第2世代目のスピードマスター(リファレンス番号:CK 2998)です。

「ファースト オメガ インスペース」のデザインは、まさにこのCK2998がベースとなっています。まさしく実用機といったツール感にあふれ、光の反射を抑えたマットな仕上げの文字盤を持っていました。

このモデルを個人用の携帯時計として購入したNASAの宇宙飛行士、ウォルター・シラーは、有人宇宙飛行を目的とした宇宙計画「マーキュリー計画」のシグマ7ミッションで実際に着用しました。1962年10月3日に決行されたこのミッションは、飛行時間にして9時間13分11秒、地球を6周した末に帰還し、このCK 2998が史上初の宇宙空間に到達したオメガの時計となったのです。このような輝かしいストーリーから、CK 2998はオメガの歴史において重要な1本になりました。

そんなCK 2998にオマージュを捧げ、現代の高級時計として蘇らせたのが「ファースト オメガ インスペース」というモデルになります。初めてこのコンセプトで製作されたのは2012年のことであり、絶大な人気があったため2021年までのおよそ10年間もの長い間製造されました。そして、惜しまれつつも生産終了した約3年後となる2024年の10月に、アップデートを果たした最新版の「ファースト オメガ インスペース」が発表されたのです。

原作を踏襲しつつ現代的に解釈されたディテール

まず本作の外観ですが、ひと目見ただけでムーンウォッチとの明らかな違いを感じられます。ムーンウォッチのアイコニックな意匠である、張り出した側面のリュウズガードがない、細身でクラシックなケースフォルムが印象的です。その影響もあり、ケース直径42mmのムーンウォッチに対し本作は直径39.7mmと小ぶりなサイズ感となっています。

目一杯タキメーターベゼルを広げ、視認性を高めた文字盤周りはスピードマスターらしい意匠。艶やかな濃いブルーグレーの文字盤が、オリジナルとの明確な違いを示しています。


腕時計のケース直径において、特に細腕の方にとっては、直径40mmを超えるか超えないかで着用時の印象が大きく変わってくるでしょう。直径42mmのムーンウォッチを着用して少し大きいと感じたという方にとっても、このオリジナルに忠実なサイズ設定は魅力的です。前述のようにリュウズガードや側面の張り出しがないためケース形状がシンメトリーになっており、シャープに絞られた細いラグも含め、ケースが大きく見えるような要素が削ぎ落とされています。

張り出したリュウズガードのないスッキリとしたケースサイド。リュウズ表面の「Ω」マークは、1960年代当時のものが採用されており、よく見ると形状が異なるのです。


ステンレスブレスレットも本作ならではのもので、こちらもオリジナルを踏襲した外観になっています。丸いコマが連なったムーンウォッチに対し、こちらは薄く平面的です。しかもバックル側に向かって細くなっていく形状のため比較的軽量で、時計本体を含め過度にずっしりとした重さも感じられません。総じて手首が細い方にとっても着用しやすいものに仕上がっているのです。

現代の時計にしてはブレスレットが薄く軽やかな印象を受けるかもしれませんが、これもオリジナルの意匠を反映させたもの。ケースとの接合部からバックル側にかけて細く絞られた形状になっています。

そして本作のヴィンテージらしさをより強調しているのは、丸みを帯びたドーム形状の風防でしょう。当時のスピードマスターの風防はガラスではなくヘサライト(強化プラスチック)製のものが採用されていましたが、この理由は無重力の宇宙船内で風防が割れてしまった際に、ガラスの破片が飛び散る危険性を防ぐため。本作ではそんなヘサライト風防の形状を踏襲しながらも、現代の高級時計らしく傷のつきにくいサファイアクリスタルで作り上げたのです。

注目は風防中心に刻まれた極小の透かし「Ω」マーク。これはオリジナルが製造されていた時代の名残で、ヘサライト風防に偽造防止とオメガの信念を表すため小さなマークを入れていました。ルーペを使わないと見えないほど小さいものですが、この細かなディテールこそにオメガの本気を感じられます。

傷つきにくいサファイアクリスタル風防には極小の「Ω」マークが。顕微鏡レベルで観察すると粒状になっており、裏側からレーザーによって施されています。


前述のように文字盤も大まかなデザインそのものは原作通り。あえてインデックスを日焼けしたようなベージュ系の色に調整したり、12時位置に植字された「Ω」ロゴと「OMEGA」の書体を当時と同じものを使用するなど、ここにもヴィンテージらしさが強調されています。一方で、やはり現代の高級時計としての側面も持ち併せており、ブルーグレーの絶妙な色味と、放射状に広がるサンレイ仕上げが生み出す繊細かつ重厚な雰囲気は、装飾的要素を一切省いた実用機であったCK 2998には無かった要素です。

文字盤と別体でつくられる12時位置の「Ω」マークを拡大。オメガファンなら、この”旧ロゴ”を好まれる方も多いのではないでしょうか。

ムーブメントも現行機に完全刷新


そして今回の刷新により、ムーブメントは現行のムーンウォッチにも搭載されている手巻きの「キャリバー3861」が採用されました。オメガの代名詞である「マスタークロノメーター」の認定を受けた機械であり、油切れを起こしにくく高精度なコーアクシャル脱進機を備えています。

1960年代に完成していたものを、現代でも問題なく使えるクロノグラフとして仕立て上げた「キャリバー3861」。オメガは、現代では少なくなった手巻きクロノグラフを量産できる体制を整えた数少ないブランドです。

この機械は1968年に製造が開始された手巻きクロノグラフ「キャリバー861」をベースに改良して設計されました。そのため、ヴィンテージな要素を持ちながら、前述のコーアクシャル脱進機や高い耐磁製を持つシリコン製のパーツなど現代の新しい技術が使われており、この時計全体のコンセプトともうまく合致しています。

入念に仕上げられた美しい機械を搭載していながらも、ソリッドバックによって内部が隠されているのは、可能な限りオリジナルの文法を守ったヘリテージモデルであるからこその仕様なのです。


残念ながらソリッドな裏蓋で塞がれているためこの機械を鑑賞することはできませんが、その代わりに本作だけの特別な意匠が施されています。中央にはギリシャ神話に登場する海の守護神「シーホース」が大きく描かれており、これはスピードマスター自体がシーマスターから派生して誕生した時計であったという歴史的背景が由来です。加えて“THE FIRST OMEGA IN SPACE”という文字と、CK 2998が宇宙へ旅立った、シグマ7ミッションの歴史的な日が刻まれています。

前述の通り、本作のケース直径は39.7mmとスピードマスターとしては非常に小ぶり。バックルにかけて絞られたブレスレットも相まって全体的に引き締まって見えるでしょう。

こうした輝かしい歴史的背景と、現代的な解釈の融合こそオメガの得意とする分野。見事ミッションを成し遂げた宇宙飛行士ウォルター・シラーと、共に宇宙へ旅立った”セカンド・スピードマスター”に想いを馳せ、本作はオメガの新たな歴史を刻んだのです。

【スペック】

オメガ「スピードマスター ファースト オメガ イン スペース」

品番:310.30.40.50.06.001

ケース:ステンレススティール(直径39.7mm、厚さ13.38mm)、50m防水

ムーブメント:Cal.3861(機械式手巻き、パワーリザーブ約50時間)

機能:時・分・秒、クロノグラフ

価格:125万4000円(税込み)、2025年8月現在

この記事の監修

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