
高級時計ブランドについてリサーチする際、大抵の場合はそのブランドの注目度の高いモデルがヒットし、その多くは平均単価より高い価格帯になっていることが多いでしょう。しかし、そんな中で隠れた名作が、実は手が取りやすいそのブランドのエントリーモデルだということもあります。今回は日本が誇る高級時計ブランド、グランドセイコーの”最強エントリー”でもある、「ヘリテージコレクション SBGX261」と「SBGX263」2モデルの魅力をご紹介いたします。
高級時計ブランドの”本気度”を探るならエントリーモデルを見よ
物価高が進み天井知らずの値上げが続く2025年の日本。高級時計業界においてもモノの値上げが顕著であり、ここ数年の間で何度も価格改定を繰り返すブランドも少なくありません。特に、10~20年ほど前の市場を知る人々にとっては、この状況はまさしく悲劇でしょう。欲しかったあのモデルが値上がりしすぎて買えなくなった、という声もよく耳にします。
そんな状況のなかで、近年注目を集め始めたのがエントリーモデルです。エントリーモデルとは言葉通り、そのブランドで価格が低い商品のことを指します。

ケース:ステンレススティール(直径37mm、厚さ10mm)、10気圧防水
ムーブメント:Cal.9F62(クォーツ式)
機能:時・分・秒、日付
価格:30万8000円(税込み)、2025年9月現在
どのブランドにも注目を集めやすい人気モデルが複数あり、多くの場合それらは単価が高めな傾向にありますが、ここで忘れてはいけないのがエントリーモデルの存在。高級ブランドの時計は、必ずしもすべてのモデルが高額品というわけではありません。
もともとの価格が低いうえ、市場価値が上昇しやすい18Kゴールドなどの貴金属素材や、ダイヤモンドなどといった貴石を使用していないぶん、値上げ率も低い傾向にあるのも特徴。総じて、手に取りやすい価格帯で、モノのクオリティとのバランスが取れていることが多い印象です。

ケース:ステンレススティール(直径37mm、厚さ10mm)、10気圧防水
ムーブメント:Cal.9F62(クォーツ式)
機能:時・分・秒、日付
価格:30万8000円(税込み)、2025年9月現在
そして重要なのは、このエントリーモデルこそがそのブランドの”本気度”を読み取る指標にもなるということ。長い歴史と知名度を持ち、現在国内で広く流通している高級時計ブランドの多くは、エントリーモデルにもきちんと力を入れて作られているという傾向にあります。ただ、単価が低いからといって、極端なまでのコストカットを図った”安かろう悪かろう”のモデルを出さないのは、やはりそのブランドの誇り高きプライドを守るためでもあるのです。
エントリーモデル最強論を体現するグランドセイコー
前置きが長くなってしまいましたが、ここで本題であるグランドセイコーに話を移しましょう。グランドセイコーは言わずと知れた日本が誇る高級時計ブランドです。その歴史は1960年に製造された1本のモデルから始まり、「世界に通用する高精度で高品質な腕時計を製造する」という信念のもとで成長を続けてきました。

ブランド誕生から60年以上が経過した今でもその信念は貫かれ、基本的なデザイン様式を守りながら日本人らしい美意識のもとで誠実に時計製造を行っています。2017年にはセイコーから完全にブランド独立を果たし、これまで以上に世界へ羽ばたいているのです。
さて、そんなグランドセイコーのエントリーモデルが、今回ご紹介する「ヘリテージコレクション SBGX261(ブラック文字盤)、SBGX263(シルバー文字盤)」の2本になります。先に価格を述べると、それぞれ税込み30万8000円(2025年9月現在)。これは、他のコレクションの小型レディースモデルを含めても、最も手に取りやすい価格設定となっています。
グランドセイコーの平均的な価格帯は50~60万円ほどであり、おおよそメインとなるのは60万円前後。特に近年注目度が高い通称”白樺”モデルに至っては100万円をはるかに超えるプライスタグが付いており、平均単価も上昇傾向にあります。

グランドセイコーにおける価格帯の違いは、主に登載する機械(ムーブメント)や文字盤によって異なります。電池で動作する「クォーツ式」から始まり、古典的なゼンマイを巻いて駆動させる「機械式」、その両方をハイブリッドさせたセイコー独自のメカニズムである「スプリングドライブ式」というように価格帯が推移します。かかるコストはムーブメントのパーツ数が多い後者が上ですが、時刻表示の正確性と実用性において軍配が上がるのはクォーツ式でしょう。
特にグランドセイコーのクォーツ式は一味違います。前述の機械式やスプリングドライブ式ほどパーツ数が多くないため価格が抑えられていますが、クォーツ式の利点を活かした精度の高さと耐久性を考え抜かれた、まさしく”名機”。
「ヘリテージコレクション SBGX261、263」が登載するキャリバー9F62という機械は、電波時計ではないにもかかわらず、1年間で±10秒前後という精度を誇り、都度時刻修正を行う必要がありません。また機械式と同じように、パーツ同士が摩耗しやすい部分などに人口ルビーを埋め込むなどの工夫により、何十年も使える耐久性を持たせているのです。

幅広いシーンで着用できる超定番デザイン
非常に高い精度で実用性抜群の本作ですが、エントリーモデルでありながら機械だけではなく、外装における仕上がりも大きな魅力です。

本作が属するヘリテージコレクションは、クラシックとモダンが交差するシンプルさが特徴。1960年代に製造されたグランドセイコーの古典的なスタイルを守りつつ、腕に沿うような曲面なども取り入れた現代らしさも持ち併せています。
本作を実際に手に取ると、高級時計として完成された質の高さを実感していただけるでしょう。「グランドセイコースタイル」という、厳格に決められた独自のデザイン文法に基づいて設計されているため、直感的に美しさや時刻の読み取りやすさを感じられます。特に、仕上げレベルの高さが評価されている文字盤上の針やインデックス(時刻の目盛り)に至っては、端面に斜めのカットを入れて鏡面に磨きあげることで、文字盤を斜めから見た際の視認性も確保しているという徹底ぶりです。

加えてケースやブレスレットも美しく感じるのは、グランドセイコーが誇る研磨技術「ザラツ研磨」を施しているからに他なりません。ザラツ研磨という名称は、かつてスイスの「ザラツ兄弟社」が製造していた研磨機を用いて研磨を行うということから。限られた職人が専用の治具を使用しながら1点ずつ手作業で行うため、研磨を行った面のダレ(歪み)が発生せず、美しいベゼルやケースサイドの鏡面が得られるのです。

また本作は37mmという少し小ぶりなケースサイズも魅力。メンズ向けであれば直径40mmを超えるモデルも多い中、近年のトレンドでもある”小径化”が図られています。日本人の手首は細い傾向にあり、直径40mmを超えるとラグを含めた縦方向で腕からはみ出してしまうこともしばしば。37mmであれば、手首周り15cm以下の細腕の方であっても違和感なく着用でき、シャツの袖にも問題なく収まります。
本作の少し厚みのあるブレスレットはグランドセイコー専用のものです。ケースとブレスレットの重量バランスが考慮されている設計でもあるため、着用した際に時計本体が大きく振られることもありません。時計のブレスレットは、車で言えばタイヤにあたる部分。着け心地を大きく左右する重要なパーツにも力を入れているのです。

購入後も安心で生涯のパートナーに
せっかく時計自体が質の高いものでも、購入した後に何年、年十年も愛用できないならば良い時計とは言えないでしょう。その点、グランドセイコーはアフターサービスにおいても国内ブランド屈指の高い信頼性を誇ります。
正規店で購入するとまず5年間の保証が付帯し、その期間内でもし不具合が起きてしまった場合は無償で修理・調整が行われます。グランドセイコーは国内でも有数のマニュファクチュール(=自社一貫生産の体制が整ったブランド)ということもあり、アフターサービスの分野でも管理が徹底されています。

オーバーホール(分解掃除)や修理は、グランドセイコースタジオというアフターサービス専門の部門で行われます。国家資格を持った技術者が多く在籍しており、一般的な流れ作業ではなく初めから終わりまで一人の技術者が一貫して作業を行うというスタイルを採用。
例え電池交換のみであってもムーブメントを隅々まで目を通し、問題があればパーツ交換を行い、防水検査まで行って「修理完了報告書」とともに完璧な状態で返却されます。加えて、生産が終了したモデルに不具合が起きてしまった場合でも、予備パーツを長期にわたって保管しているため安心。きちんと整ったアフターケアも含めて、はじめて良い高級時計ブランドと言えるのです。

いかがだったでしょうか。ケースや文字盤、ブレスレットなどの外装から内部のムーブメントまで徹底的にこだわり、さらにはアフターケアまで充実させ価格以上のクオリティを実現させている「ヘリテージコレクション SBGX261,263」の2本は、まさしく最強エントリーモデルの好例でしょう。
初めての高級時計を探されている方に限らず、すでに複数本お持ちの方でも、シーンを選ばない実用機として選んでみてはいかがでしょうか?