グランドセイコー独自のメカニズム「スプリングドライブ」を存分に味わう、ヘリテージコレクション「SBGA439,465」

ヘリテージコレクション「SBGA439」

美しさと高い精度を両立し、永く愛される高級腕時計を世に輩出するグランドセイコー。今回ご紹介するのは、ヘリテージコレクションに位置するシンプルな王道モデル。濃いブルーに惹き込まれる「SBGA439」と、和紙のようなテクスチャーを持つ「SBGA465」の2本です。共通するのは「スプリングドライブ」の機械を搭載していること。グランドセイコーが誇る、独自のメカニズムを探ります。

ヘリテージコレクション「SBGA465」
目次

精度を追求してきたグランドセイコー

今や日本が世界に誇る高級腕時計ブランドとなったグランドセイコーは、1960年に誕生して以来、今日まで多くの優れた高級機を生み出してきました。その根幹にあるのは、「世界に通用する高精度で高品質な腕時計を作り出す」という、当初からブランドに掲げられた信念です。

初代グランドセイコーが製作された時から、優れた美観はもちろん、高い精度を追い求める姿勢が確立されていました。その証拠に1960年代には、スイスの時計業界で定められた精度の検査基準「クロノメーター規格」を上回る「グランドセイコー規格」という基準を独自で設定。様々な環境下で時計を着用することを想定した機械の調整及びテストを行い、すべてのモデルにおいてその精度基準内に収めていたのです。

このような功績として、スイスの天文台で行われていた腕時計の精度を追及するコンクールに複数回参加し、時計製造の本場であるスイスの名だたるブランドを相手に好成績を収めました。そこで培われた精度向上のための技術は、実際に販売される製品にも応用され、高い評判とともにグランドセイコーの名をを大きく成長させました。

1967年に行われたヌーシャテル天文台コンクールにおいて好成績を収めたセイコー。コンクールに参加することで技術のさらなる向上を目指し、培った技術は後の製品に活かされていきました。

新しい技術を積極的に取り入れることもセイコーの得意技です。ゼンマイを動力源にした機械式時計の常識を覆す、今や当たり前の存在となったクォーツ時計が誕生したのは1969年のこと。

セイコー「アストロン」と名付けられ、電池で駆動する画期的なその時計は、あまりの精度の高さからスイスの時計産業に大きな打撃を与え、後に「クォーツショック」と呼ばれる歴史的な出来事となったのです。このクォーツの技術を成熟させ、より精度を高めて1988年にグランドセイコー最初のクォーツモデルが誕生するに至りました。

グランドセイコーの名を冠する初のクォーツモデル「95GS」。年差±10秒という非常に高い精度は、1988年当時としても異例でした。

機械式とクォーツ式のハイブリッド

さて、長い歴史の中で精度を追求してきたグランドセイコーは、1999年に画期的なメカニズムを発明。しました。それが、機械式とクォーツ式が持つそれぞれのメリットを掛け合わせた、両者のハイブリッドである「スプリングドライブ」と名づけられた全く新しい仕組みです。

グランドセイコーを代表するスプリングドライブムーブメント、キャリバー9R65。1999年に開発された初期のスプリングドライブを、およそ4年もの歳月をかけて現代仕様にアップデートさせたもの。精度が向上しただけでなく、ムーブメントのパワーリザーブ(持続時間)は約2日間から3日間に延長されました。現在最も多くのモデルに採用されているムーブメントで、今回ご紹介する「SBGA439,465」もそのひとつです。

まず機械式は、巻いたゼンマイがほどける力を動力源とし、「テンプ」や「ガンギ車」と呼ばれる複数のパーツが、ゼンマイがほどける速度を遅く調整することで針を動かしています。ゼンマイさえ巻き続ければ半永久的に動き、トルク(ゼンマイが持つパワー)が大きいので多くの機能を搭載させることができる半面、すべてアナログなパーツの組み合わせであるため精度を出すには限界があり、一日に最低でも数秒~十数秒のずれが生じてしまいます。

機械式ムーブメントの例として、グランドセイコーで最も多くのモデルに採用されているキャリバー9S65を例に挙げます。右上にある金色の輪が「テンプ」というパーツで、こちらが左右に回転することで振り子の役割を果たし、ゼンマイがほどける速度を調整しながら時を刻みます。電子部品は一切使っておらず、すべてこのアナログな部品の動きだけで成り立っているのです。

一方でクォーツ式は、小さなボタン電池を動力源とし、電圧をかけることで細かく振動する「水晶振動子」と、その細かな振動を電気信号に変える「ICチップ」を介して回転するモーターにより針を動かしています。

電子制御のため非常にずれが少なく、月に数秒程度と機械式とは比べ物にならないほど精度が高いのが特徴。その反面、電池が切れたらその都度新しいものに交換する必要があり、小さなモーターではパワーが弱いため多くの機能を搭載しにくいというデメリットがあります。

極めて精度の高いグランドセイコーが誇るクォーツムーブメント、キャリバー9F85を例に挙げます。電波を受信していないにもかかわらず、1年間で約±10秒しかずれないという高精度なものです。右上のボタン電池から、左側にある銅色で円柱状のパーツ「コイル」やプレート類に隠れた電子基板へ電気を供給し、内部のモーターを制御して動かします。現代で最も世に普及しているのはこのクォーツ式で、その割合は9割以上にもなります。

一方で、スプリングドライブのメカニズムは次の通りです。機械式同様にゼンマイを動力源としており、複数の歯車類を介して、磁石のついた「ローター」と呼ばれる円盤を回転させることで発電。その電力をクォーツにも組み込まれている水晶振動子やICチップへ送ることで、電気的にブレーキをかけて歯車の回転する速度が調整されます。

スプリングドライブのメカニズムを構成するおおよそのパーツの図解。この図は初期のものであるため、現在のスプリングドライブとはパーツの形状が異なります。この図のようにゼンマイを動力源としながらも、ICなどの電子部品を備えています。「ゼンマイがほどける速度をコントロールしながら針を動かす」という大まかな理論は機械式と共通していますが、その中で「発電を行う」ことが大きな特徴となっています。その電力によってクォーツ式にも使われるICおよび水晶振動子が働き、ローターが回転する速度を調整することで正確に時を刻みます。

このような仕組みから、ゼンマイを巻けば機械式のように半永久的に動き続けるメリットと、クォーツの電子制御による精度の高さを両立させたのです。

スプリングドライブを存分に味わう王道モデル

そんなスプリングドライブのムーブメントを搭載したモデル群で最もスタンダードなのが、今回ご紹介するヘリテージコレクションの「SBGA439」と「SBGA465」の2本です。

ヘリテージコレクションは「伝統に新しい命を吹き込む、美しい日本の腕時計」というコンセプトで、シンプルでバランスの取れたGSの王道シリーズ。ブランド独自のデザイン文法である「グランドセイコースタイル」を確立した1967年の歴史的モデル「44GS」を、現代的に解釈したデザインが魅力です。

前者「SBGA439」は、深みのあるミッドナイトブルー文字盤に惹き込まれそうな1本です。光沢のある文字盤表面には、中心から筋目が放射状に広がる「サンレイ仕上げ」が施されているため、光の強さや角度によって表情を大きく変わり、見る者を楽しませてくれます。

光が中心から放射状に広がってゆく「サンレイ仕上げ」は、初期のグランドセイコーから採用されてきた美しい仕上げです。本作のブルーは深く奥行きがあり、光の色、強さや文字盤を見る角度によって全く異なる表情に多様に変化します。

また後者「SBGA465」は、グランドセイコーが得意とする、型打ちの細かなパターンが施された、クラシックなホワイト文字盤が特徴の1本です。幾何学的ではないランダムな方向に筋目が無数に入っているため、白い和紙や、雪の積もった地面のようにも見えます。

近年グランドセイコーが積極的に取り入れているのが「型打ち」の文字盤です。文字盤のベースとなる金属プレートに、このパターンが入った専用の「型」を打ち付けることで施しています。目に見えないほどの細かなパターンが作れるので、文字盤に多彩な表情を与えることができるのです。

片共通するのは、前述の「グランドセイコースタイル」に則った文字盤デザイン。このデザイン文法では、インデックスや針の長さ・太さ、仕上げまで厳格に決められているゆえ、優れた視認性が得られているのです。特に針の仕上げは高く評価されており、斜めの鏡面カットを入れることでシャープなフォルムになり、文字盤を正面からのみならず斜めから見た際の視認性も確保されています。

加えて直径40mmのケースはメンズモデルとしては標準的。文字盤の色やデザインが主張しないシンプルなものであるため、服装や場所を選ばず、幅広いシーンで着用できます。グランドセイコーの時計はスーツにこそ相性が良くビジネスシーンで重宝されるのですが、この2本はステンレス製のブレスレットを組み合わせているためスポーティーな要素もあり、プライベートでもカジュアルに着用できるでしょう。

こだわり抜いた仕上げは、ブレスレットも共通しています。片開き式のバックルには誇らしげに「GS」マークが嵌め込まれており、快適な装着感を約束します。ブレスレットには通常の半分のサイズのコマが組み込まれているため、より正確な調整ができ高いフィット感を得られます。

時の移ろいを表現するスプリングドライブ

そして両者に搭載されるのは、前述の自動巻きスプリングドライブムーブメント「キャリバー9R65」です。現行型のスプリングドライブモデルに最も多く搭載されている機種で、日付表示が付いているほか、パワーリザーブは約72時間(およそ3日間)と実用性も十分。

文字盤の7時位置には、残りの駆動時間を示してくれる「パワーリザーブインジケーター」を備えています。3分割させた目盛りを読んで、あと何日くらい動くかを読み取ることができるので、非常に便利な機能です。そして肝心な精度は1か月に±15秒以内に調整され、最もスプリングドライブの実力を感じられるポイントです。

残りの動作時間が分かるパワーリザーブインジケーターは実用において非常に便利なものです。針が下まで降りたらゼンマイがいっぱいまで巻かれている証拠で、着用している限りはこの状態を保ち続けるでしょう。

そしてスプリングドライブの特徴は精度だけではありません。時計の秒針は、クォーツなら1秒ごとに飛ぶように動作し、機械式の場合は振動数に応じて小刻みに動きます。対してスプリングドライブは、秒針が止まることがないため無音で、滑らかに動き続けるのです。これは「スイープ運針」と呼ばれており、スプリングドライブのムーブメントのみが持つ特徴となっています。

グランドセイコーは針の仕上げにも定評があり、そのエッジを効かせた仕上げは高い視認性をもたらします。針の表面も鏡のように磨かれており、その様子は日本刀を思わせる鋭さです。

グランドセイコーはこのスプリングドライブを、”時は移ろいで行くもの”という日本的な時間の捉え方を表現していると説明しました。自然の時の流れと調和するスプリングドライブは、途切れることなく所有者とともに時を刻む、唯一無二の相棒となるでしょう。

ケースの直径は40mmとメンズモデルとして標準的であるため、人を選ばず腕に馴染みます。そして本作は何といってもスプリングドライブ。スーッと滑らかに動く秒針を眺めることは、実は精度云々よりも重要な要素かもしれません。

【スペック】

グランドセイコー「ヘリテージコレクション スプリングドライブ」

品番:ブルー文字盤モデル:SBGA439、ホワイト文字盤モデル:SBGA465

ケース:ステンレススティール(直径40mm、厚さ12.3mm)、10気圧防水

ムーブメント:Cal.9R65(自動巻きスプリングドライブ、パワーリザーブ約72時間)

機能:時・分・秒、日付、パワーリザーブ表示

価格:68万2000円(税込み)、2025年8月現在

この記事の監修

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小林時計店

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