
グランドセイコーのエレガンスコレクションに位置する「SBGR261」は、3針+日付表示というシンプルな構成ながら、多くの時計愛好家を魅了する定番モデルの一つです。アイボリー文字盤や青焼きの秒針など静かな個性を持ち、多くのシーンで腕元を飾ってくれる飽きの来ない1本になるでしょう。今回は、そんなSBGR261の普遍的な持ち味を探ってまいります。
シンプルなほど奥が深い
腕時計に求められる外見や機能は、時代やその時の流行、着用シーンなどによって変化するのが常ですが、唯一変わらない要素があるとすれば、「シンプルであるほど普遍的である」ということでしょう。
これは何も腕時計に限った話ではありませんが、クロノグラフや複雑なカレンダーを搭載し、針が何本もついているモデルよりも、最低限の表示を持ったシンプルなモデルのほうが、その時計が持つ個性を出すのが難しいのです。

デザインの世界では、要素を足していくよりも削っていくほうが大変だと言われています。ある物事を原稿用紙1枚で説明するのと、たった一言で簡潔にまとめるのをイメージしていただくと分かりやすいでしょうか。
日本には古来から、無駄な要素を徹底的にそぎ落とした先に、本質的なものが見えてくるという「禅」の考え方があります。シンプルであることと合理性が両立したものに、美しさを見い出す。これはモノに限らず文化や作法にも通じることでしょう。
そしてその失われつつある考え方は、日本が誇る腕時計ブランド、グランドセイコーが持つ精神にも通じています。グランドセイコーのラインナップを見渡すと、全体が統一され、どのコレクションも比較的シンプルであることが分かります。
これは「グランドセイコースタイル」というデザイン文法のもと、日本の美意識を反映させながら普遍的な価値を作り出すという、グランドセイコーの精神の表れといえます。
エレガンスという永遠のテーマ
今回ご紹介する「SBGR261」が属するのは、ドレッシーな時計が集まるエレガンスコレクション。前述したような日本の美意識の中でも、モノの普遍性や洗練されたデザインといった要素を取り入れており、ヴィンテージウォッチを思わせるようなクラシックな印象を受けます。
そんなエレガンスコレクションの中でも、ひときわヴィンテージ感のあるのが本作です。文字盤はホワイトではなく、淡い色味のアイボリー。ヴィンテージ文字盤が日焼けした様子を想起させる珍しいカラーリングです。ここ数年の間で時計業界で流行している「サーモンピンク」の彩度を大幅に抑えたような、なんとも絶妙なニュアンスカラーです。

近年のグランドセイコーは、特に新しい文字盤製作に対して積極的であり、これまで出せなかった表面の質感やカラーを採用しています。SBGR261の文字盤はフラットなラッカー仕上げですが、このニュアンスカラーを選定するために、相当な練り直しがあったことが予想されます。
際立つ針とインデックス
前述したグランドセイコースタイルには時計の使い心地、とりわけ時刻の読み取りやすさが重視されています。そのために、文字盤のデザインに独自の決まり事を設けているのです。
たとえば、12時位置のインデックスは他のインデックスの2倍の幅を持たせること、インデックス・針には角を落とした多面カットを取り入れること、文字盤表面はフラットにすること、針の根元はインデックスより太くすること、などなど…。これは1967年に誕生した「44GS」というモデルから直接受け継がれたもので、この44GSが現在のグランドセイコースタイルを原型を作り上げた祖とも言われています。

特に針の仕上げの美しさが高く評価されているグランドセイコーですが、本作の実機を見るとシャープな針が見事に際立っています。先端が尖った「ドーフィン針」と呼ばれるデザインで、多面カットのインデックスとの相性が良く、視認性は申し分ない印象。また細い秒針の青色は塗装ではなく、炎で加熱して酸化被膜を施す「青焼き」という伝統技法によるものです。
3時位置に配置された日付窓も面を落とした奥行きのある仕上がりで、本作特有の文字盤全体のシンプルさを邪魔しないよう工夫されています。日付表示の有無については個人の好みが別れてしまう部分ですが、本作に日付表示を付けたのは実用性を重視してのことでしょう。ドレスウォッチのようなシンプルさと、安心して日常使いできる実用性を両立させるのは、グランドセイコーが得意とする部分です。
ヴィンテージらしいパッケージング
SBGR261がヴィンテージウォッチらしく見えるのは、側面がせり立ったボックス型風防を取り入れている点にも起因します。表面はフラットではなくドーム形状なので、斜めから文字盤を見たときに光の反射を抑えて視認性を確保しています。
そして丸みを帯びたケースサイドやベゼルは、歪みのない「ザラツ研磨」によって美しく鏡面に磨かれ、高級時計らしく上品な仕上がりとなっています。ただ単にヴィンテージモデルのデザインを流用するのではなく、細かな部分に現代的な解釈を取り入れることで、普遍的な時計として昇華させているのです。

進化した実用性重視の自動巻きムーブメント
本作を裏返すと、シースルーバックになった裏蓋の窓から、搭載する自社製ムーブメント「キャリバー9S65が鑑賞できます。1998年以降、多くのグランドセイコーの3針モデルに採用されてきた、キャリバー9S55系を大幅にアップデートさせた現行機種です。

特に「アンクル」や「ガンギ車」、「テンプ」などといった、機械の精度に影響するパーツの工法を見直すことで、時刻の遅れ・進みを抑えました。加えて、動力源であるゼンマイまわりの構造や巻き上げ方法を変更し、パワーリザーブを一般的な2日間から3日間まで伸ばすことにも成功。金曜の仕事終わりに時計を外しても、月曜まで動いてくれるため非常に便利です。

シンプルでありながら実用性も重視したSBGR261は、幅広い層に薦めたい完成度の高い1本です。仕事中に活躍してくれる頼もしい相棒としても、週末だけ愛でるコレクションアイテムとしても、その良さを実感できるはずです。
【スペック】
グランドセイコー「エレガンスコレクション」
品番:SBGR261
ケース:ステンレススティール(直径39.5mm、厚さ13.1mm)、日常生活用防水
ムーブメント:Cal.6S65(機械式自動巻き、パワーリザーブ約72時間)
機能:時・分・秒、日付表示
価格:63万8000円(税込み)、2025年8月現在