2026年4月、ジンの名作として名高い「244」の系譜を継ぐ新たなインストゥルメント(道具・計器の意)ウォッチとして「544」シリーズが発表されました。ケースから文字盤にかけてカーブを描いた独特のフォルムが特徴で、244の要素を継ぎながらも現代ならではの要素も盛り込んだ時計に仕上がっています。今回はジンにおける2026年最注目の新作544の魅力を掘り下げます。

名作「244」の系譜
まさに質実剛健という言葉がふさわしい、実用を最優先した”道具”としての時計作りを続けているドイツの時計ブランド、ジン。展開されるラインナップから分かるように、ジンの時計は”計器”と評されることが多く、警察の特殊部隊や消防のレスキュー隊が実戦で使用することを想定した少々オーバースペックともいえる性能を備えています。ジンを創業した人物であるヘルムート・ジン氏は元ドイツ空軍のパイロットであり、彼の経験が引き継がれいまの製品にも活きています。
そんなジンは2026年4月、複数の新作をリリースしました。計算尺を備えたクロノグラフ「903」の新たなバリエーションや、狩猟のためのハンティングウォッチ「308」など、非常に魅力的なモデルを披露。その中で特に注目度が高く、ジンを知るコレクターや愛好家から熱視線を注がれるのが、今回ご紹介する「544」シリーズです。

ではなぜ、この「544」は注目されているのか。それは本作がジンの”隠れた”名機「244」の意匠を受け継ぐモデルとして製作されているからです。ということで、「544」の解説の前に「244」についてご紹介する必要があります。「244」は1994年にジンの経営を引き継いだ現社長のローター・シュミット氏が最初に手がけたモデルとしても知られており、1974年に登場したクロノグラフモデル「144」で初めて採用された、ラグ一体型で滑らかな曲線を描くフォルムを継承。小型の3針モデルとして機能を絞りながらも、実用時計にふさわしい堅牢で優れた耐磁性・耐衝撃性を持っていました。


「544」はジンが誇る名機たちの系譜を継ぐ最新作として登場したモデル。3針+日付という表示の構成は「244」が持つ要素であり、シンプルな3針スタンダード機として高い人気を誇る「556」シリーズに加わる新たな3針モデルの選択肢となりました。ケースのフォルムが異なるため「556」とは全く異なる印象を受けますが、オリジナルの「244」を知る人ほど本作が魅力的に思えるはずです。
ジンらしさの詰まった「544」の顔
それでは実際に「544」の細部に迫ってまいります。まずは本作の顔である文字盤にフォーカスします。他のモデルにも採用された、いかにもジンらしいマットな質感の黒文字盤です。「244」と全体的なデザインは共通点が多いですが、密かに進化したポイントがあります。

そのひとつがインデックスです。「544」ではインデックスそのものが発光する”ハイブリッドセラミックス”が採用されており、角棒状のセラミックス自体に蓄光する素材を練り込んでいる特殊なもの。航空計算尺を備えたパイロットウォッチの「903」シリーズで初めて採用されたこのインデックスは、上部だけでなく角棒状の側面部分も含めて全体が発光するため、暗所で斜め方向から見た際でも視認性が損なわれにくいのです。
また視認性において重要なのは針。注射針のように先端が細くなった分針は、15秒ぶん毎に振られた目盛りまでしっかりと届いており、これは「244」のオリジナルやほかのインストゥルメント・ウォッチとも共通している要素です。秒針の色には2種類あり、ホワイトの本作「544」、赤くペイントされた「544 RS」をラインナップ。ホワイト針はステンレス製ケースのモノトーンな雰囲気と調和している一方、オリジナルの「244」により近い雰囲気を楽しみたい方は”RS(レッド・セコンド)”仕様をお勧めいたします。

またジンに共通する珍しい要素として「針の高さ」があります。多くの実用時計は衝撃などの影響に耐えるように針と針の間に隙間を持たせていることがほとんどですが、ジンは違います。針同士のクリアランスをギリギリまで詰め、しかしながら衝撃に耐えられるように作られているのです。その理由は、文字盤を斜め方向から見た際でも時刻を正確に読み取りやすくするためと、文字盤から風防(ガラス)までの空間が狭くなり、結果としてケース全体の薄型化にも貢献できるため。
ジンは「Uシリーズ」などのダイバーズウォッチであっても、他ブランドよりも防水性能が高いうえに薄型であるように、卓越した外装設計技術があります。シンプルゆえに目に見えての凄さは控えめですが、細部を詰めることで実用性に貢献しているのです。
「544」を特徴づける独特のフォルム
前述したように、本作544は1974年の「144」、1994年の「244」から引き継がれた独特のフォルムを持っています。ケースやブレスレットには、全体的にマットな質感を生み出す”ビーズブラスト”仕上げが施されており、これも先代を継ぐ要素。加えて4時位置に設けられたリュウズや、ブレスレットまたはラバーストラップへ向けてカーブを描く一体型のラグは、まさに先代の「144」や「244」のデザインを彷彿とさせます。

外装素材は「244」では軽量なチタンだったのに対し、本作はステンレススティール製のため程よく重みはあります。これをどう解釈するかは人によって評価が分かれますが、おそらく「244」との差別化を図っているのでしょう。逆に言えば、外見の印象こそ「244」に近いですが、モノとしては「244」とは全くの別物なのです。今後チタン製のバリエーションも登場することも期待されていますが、それは来年以降に答えが出る…?のかもしれません。
スペック面を見ていくと、ケースの直径38.5mmで厚みは10mmと比較的ジンの中では控えめなサイズ。しかしながら実際に本作を手に取ってみると38mm台とは思えないほど大きく感じます。これは一体型となったラグの影響でケース縦方向の部分が詰まっていることで視覚的に大きいと感じる効果を生んでいます。オリジナルの244がひとまわり小さな36mmだったことも起因しているのかもしれません。
それからリュウズは非ねじ込み式で、水分や塵の侵入を防いでくれるジン独自の「D3システム」を採用しています。これは従来の3ピース構造(ケース・チューブ・巻き真)をチューブレスにしてパーツを減らし、二重になったパッキンを巻き真に直接取り付けることでケース内部を保護。ねじ込み式に頼らず高い防水性を実現しています。またこの外見で防水性能はなんと20気圧(200m)とダイバーズウォッチ並み。このシンプルさの中に密かに高いスペックを組み込むという方法は、まさにジンらしいものです。

汎用機であることの信頼性
本作を裏返すとソリッドではなくシースルーバックになっているところも、「244」とは異なる現代らしい要素です。搭載するのは、およそ60時間のパワーリザーブを持つセリタのSW200-2。様々なブランドで採用されている汎用機だからこその信頼性があり、もし壊れてしまっても必ず治せるという安心感は汎用機のメリットです。高性能な自社製キャリバーも良いですが、本作のような実用することを重視した時計には汎用機こそ相応しいでしょう。また先述した10mmというケース厚は、裏蓋が非常に薄く設計されていることも起因しており、腕に載せた時にケース本体の接地感があります。

実用を考え抜いたブレスレット
ブレスレットも244とは全くの別物に仕上がっています。幅は20mmで、専用のラバーストラップと交換可能な仕様。時計本体同様のビーズブラスト仕上げが施されており、まさに”道具”という雰囲気を漂わせます。特に大きく進化したのはバックル部分で、内側のボタンを押して5段階でおよそ1コマ分の延長ができるため、実用において非常に便利な機能です。加えて調整コマは他モデル同様に六角レンチで回すネジが採用されています。


このように細部にいたるまで長く実用できる耐久性・利便性ともに考え抜かれたブレスレットはジンの大きな魅力。外見的に分かりやすい凄さはありませんが、目に見えない工夫こそ長く使ってはじめてその恩恵を実感できるはずです。
最後に
いかがでしたでしょうか。名機244の現代リバイバル版という言葉だけでは片付けられない、非常に魅力的な時計に仕上がっている544。ここまで撮りおろし写真でお送りしてきましたが、本当の魅力は実機を手にとって初めて実感できるもの。小林時計店では福岡市中心部のワンフクオカビルディングの4階にございます「天神店」のジンデポ福岡にてお取り扱い中です。

今回ご紹介した544などの新作や、稀少な限定モデル等も数多く取り揃えております。ぜひ小林時計店 天神店でジンの魅力をご体感ください。最後までお読みいただきありがとうございました。