
第2時間帯を表示するGMT機能を搭載した腕時計は、海外を飛び回るビジネスパーソンのみならず、昼夜の判別ができるため国内のみで使用する際にも便利なもの。今回ご紹介するのは、グランドセイコー独自のスプリングドライブを搭載したGMTモデル3本「SBGE257,255,257」です。
グランドセイコーらしいデザインを守りながら、傷がつきにくいセラミック製のベゼルや、位置をずらしたリュウズなど、より実用性に長けたアクティブさが魅力の本シリーズを深堀りしてまいります。

腕時計におけるGMT機能とは
本シリーズを紹介する前に、まずは特徴であるGMTについて見ていきましょう。GMTとは「Greenwich Mean Time=グリニッジ標準時」を略した言葉で、イギリスにある「グリニッジ天文台」を通る子午線を基準にした「平均太陽時」を表します。
この平均太陽時とは、太陽とその周りを回る地球の自転の関係から求められる、年間を通じた1日=24時間という平均時間のこと。なぜ平均をとるのかというと、天体の運動は季節によってわずかに変化するからです。この24時間という定義に基づき、前述のグリニッジ天文台を0時の基準にしたのがGMTとなります。
また現在では、UTC(Coordinated Universal Time:協定世界時)がGMTに代わって、1972年より世界の標準時とされています。精度の非常に高い原子時計が示す「国際原子時」と、「世界時(グリニッジ子午線を基準とし、0時を一日のはじめとする平均太陽時)」を同調させたもので、複数の世界時で起こってしまう1日の長さのずれをなくすために「うるう秒」を加えて標準化しているものになります。日本の標準時子午線は東経135度線で兵庫県明石市を通っており、日本時間はUTC+9時間となっています。

ただし、このようなGMT・UTCという基準は、腕時計の世界では大きな違いはないものとされており、第2時間帯を表示する機能を持つ時計全般を指す言葉となっています。
歴史を振り返れば、このGMT機能が初めて腕時計に搭載されたのは1950年代のことでした。エンジンを搭載した飛行機が長距離飛行を行う事ができるようになったこの時代、パイロットが出発地の時刻と目的地の時刻を知るために必要としていた機能なのです。
異なる2つのタイムゾーンを瞬時に確認できるGMTウォッチはパイロットのみならず、世界中を飛び回るビジネスパーソンにも重宝され、広く普及していきました。今でもGMTという言葉が使用されているのは、この時代の名残が大きい理由です。
そしてこのGMT機能は、海外へ行ったり外国とコミュニケーションを取る人だけに役立つものではありません。GMT針を日本時間に設定しておけば、ずっと室内にいる日や天気が悪い日に、現在が午前か午後かの判別ができます。12時位置を基準とし、GMT針が右半分を指していたら午前、左半分を指していたら午後ということになります。様々な活用方法が隠れている点もGMT機能の面白いところです。
グランドセイコーの強みを生かしたGMTモデル
さて、ここからはグランドセイコーのスポーツコレクションに位置する3本のGMTモデル「SBGE257,255,257」のご紹介に移りましょう。GMT機能を搭載したモデル自体は多くの時計ブランドから発売され広く普及していますが、そんな中でも本シリーズにはグランドセイコー独自の要素があります。それは「スプリングドライブ」という画期的な仕組みを採用した機械を搭載している点です。

このスプリングドライブは、セイコーが1999年に開発した全く新しいメカニズムの名称で、ゼンマイで動く機械式と、電池で動くクォーツ式、それぞれが持つメリットを組み合わせたもの。エンジンとモーターを使用したハイブリッド自動車をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
そして実際の仕組みですが、機械式と同様にゼンマイが動力源になっています。このゼンマイが複数の歯車を介して、「ローター」という磁石のついた円盤を回転させて発電を行います。その電力はクォーツ式と同じようなICチップなどの電子部品に送られ、そこから電気的に歯車類へブレーキをかけることで、針を動かす速度を調整します。このようなメカニズムにより、ゼンマイを巻き続ければ半永久的に動き続ける機械式のメリットと、電子制御で高精度なクォーツ式のメリットを両立させたのです。

加えて、視覚的にも独自性を与えています。スプリングドライブでは、秒針が1秒ごとに動くクォーツ式や小刻みに振動しながら動く機械式とは違い、一度も止まることなく滑らかに動き続けるのです。この動きは「スイープ運針」と呼ばれ、”時は移ろい流れるものである”という日本人らしい美意識を表現しています。すでにアナログ時計をお持ちの方は、この秒針の動きを見比べてみると面白いでしょう。

「SBGE257,255,257」が登載するのは、キャリバー9R66というスプリングドライブムーブメントです。ベーシックな3針のキャリバー9R65にGMT機能を付加し、2006年に設計・開発されたロングセラーの機械になります。その特徴は、1ヶ月に10数秒しかずれない高い精度と、およそ3日間の駆動時間です。そして文字盤の8時位置に配された「パワーリザーブインジケーター」により、残りの駆動時間が表示されるのも便利な機能です。

スポーツコレクションならではの高い実用性
そしてこの3本のGMTモデルは、グランドセイコーのスポーツコレクションに属します。通常のシンプルなグランドセイコーよりも、文字通り”スポーティ”な要素が加わっているのが特徴です。このコレクションにはGMTの他にクロノグラフやダイバーズウォッチが揃い、落ち着いた印象の他コレクションと比較するとアクティブな雰囲気が漂います。

”強化された機能で腕時計の本質を向上させた、さらなる信頼に応える腕時計”と謳う本シリーズは、実用性を第一に考えた随所の仕様が目を惹きます。「SBGE257,255,257」の3本には、それぞれ異なるカラーリングのジルコニアセラミックス製ベゼルが採用されています。ジルコニアセラミックスはセラミックスの中で最も高い強度を持っているため、時計が破損するほどの強い衝撃を与えない限り、光沢のある表面に傷が入らない素材です。
腕時計の外側に位置するベゼルは、ケースの中でも特に傷がつきやすい部分でしょう。それぞれブラック、ブルー、グリーンカラーで艶やかな美しい仕上げを永くずっと楽しめるのは、スポーツコレクションならではの特徴です。

加えて、ゼンマイの巻き上げや時刻調整を行う「リュウズ」の位置が通常と異なる点にも注目です。一般的な3時位置から4時位置に移動されてる理由は、手首を曲げた際に手の甲にリュウズが当たりにくくするためです。このリュウズはねじ込み式になっており、ダイバーズウォッチではないにもかかわらず、20気圧の防水性を持っています。また、リュウズ位置に合わせて文字盤の日付表示窓も4時位置にあり、細かなデザイン上の工夫も見られます。
そして本シリーズで最も存在感があるのは、やはりGMT針でしょう。ブラック文字盤はレッド、ブルー文字盤はスカイブルー、グリーン文字盤は薄いゴールドになっており、それぞれ視認性の高いカラーリングを採用。先端が矢印型になったアロー針が、時計全体のスポーティな雰囲気を強調しています。

GMT針は時分針と連動しながら文字盤上を24時間で1周します。先にリュウズを2段引いてGMT針を任意の時刻に合わせた後、リュウズを1段引いて時針単独で動かしてホームタイムを設定することができます。
随所にスポーティで実用的な要素を備えた、スポーツコレクション「SBGE257,255,257」の3モデル。スタンダードな王道のグランドセイコーとは違った顔を持ち、日常だけではなくアクティブなシーンでも着用できる万能さが魅力のシリーズです。3つのカラーバリエーションから、貴方好みの1本を見つけてみてはいかがでしょうか。
【スペック】
グランドセイコー「スポーツコレクション GMTモデル」
品番 ブラック文字盤モデル:SBGE253、ブルー文字盤モデル:SBGE255、グリーン文字盤モデル:SBGE257
ケース:ステンレススティール(直径40.5mm、厚さ14.7mm)、20気圧防水
ムーブメント:Cal.9R66(自動巻きスプリングドライブ、パワーリザーブ約72時間)
機能:時・分・秒、GMT、日付、パワーリザーブ表示
価格:89万1000円(税込み)、2025年8月現在